小学校受験を検討されるご家庭の中で、よく耳にするのが

「記念受験感覚で国立小学校だけを受け、もし不合格だったら地元の公立小学校に進学すればいい」
という「国立単願・ダメなら公立」という選択です。
一見すると、学費の面や「ダメなら公立」という受け皿があることで、リスクのない選択肢のように思えるかもしれません。
しかし、実際に受験を経験した多くの家庭や、現場の教育関係者の間では、この「単願・ダメなら公立」という考え方には、見落とされがちな大きなリスクと後悔の罠が潜んでいることが指摘されています。

今回は、この「国立単願・ダメなら公立」という戦略の裏に隠された現実と、子どもと家庭の未来を守るための「戦略的併願」の考え方について詳しく解説します。
「国立単願・ダメなら公立」は本当にノーリスクなのか?

「私立は学費や寄付金がかかるけれど、国立なら経済的負担も少ないし、ダメ元で受ける分にはノーリスク」
と考えている保護者の方は少なくありません。
しかし、受験は親が思う以上に子どもにとって大きなエネルギーを使う一大イベントです。ペーパー試験の対策、行動観察の練習、体操や巧緻性のトレーニングなど、何ヶ月もの間、幼い我が子が必死に努力を重ねて本番に挑みます。
その結果、「ダメ元」のつもりが、直前期や試験が終わった後に「こんなことなら、もっとしっかり私立の対策もしておけばよかった」「子どもにあんなにつらい思いをさせてしまった」と激しく後悔するケースが後を絶ちません。
日程の罠:入試カレンダーがもたらす過酷な現実
国立小学校の受験を考える上で、絶対に知っておかなければならないのが「私立と国立の圧倒的な日程のギャップ」です。関東エリアと関西エリア、それぞれの入試カレンダーを見てみましょう。
【関東エリア(東京・神奈川・埼玉)のスケジュール】
- 埼玉・神奈川私立:9月〜10月(埼玉は9月、神奈川は10月中旬〜下旬)
- 東京私立:11月1日〜11月上旬に一斉実施・合格発表
- 東京国立(筑波大附属、お茶の水女子大附属、東京学芸大附属4校など):
1次抽選・出願:10月中旬〜11月
2次(本考査):11月下旬〜12月中旬
3次抽選・最終発表:12月中旬〜12月下旬
関東の場合、私立小学校の多くは11月上旬までに合否が決まります。周囲の受験仲間が「合格」を勝ち取って進学先が決まり、晴れやかな気持ちで解放されていく中、国立単願組だけは最も過酷な12月末の最終発表まで走り続けなければならないという精神的なプレッシャーがあります。しかも、万が一国立で不合格となった時点で、受け皿となる私立小学校の一般枠はすでにほぼ全て終了しています。
【関西エリア(阪神・京都)のスケジュール】
- 関西主要私立(洛南・関学・立命館・同志社・小林聖心など):
本考査:8月下旬〜9月中旬・下旬(秋口には合格が決定) - 関西国立(大教大附属天王寺・池田・平野、神大附属、京教大附属など):
本考査・発表:12月中旬〜翌年1月中旬
関西では、私立の主要校は8月下旬から9月という早い時期に本考査が行われます。そこから国立の本番・発表までには約3〜4ヶ月もの長いタイムラグが存在します。
この期間モチベーションを保ち続けることは、子どもにとっても保護者にとっても非常にエネルギーがいることです。
子どもの精神的ダメージ:「全落ち」がもたらすリスク
国立小学校の倍率は非常に高く、どれだけ優秀で準備を重ねた子どもであっても、抽選や狭き門の試験によって「ご縁がなかった」という結果になることは珍しくありません。
ここで問題となるのが、幼い子どもにとっての「合格が1つもない(全落ち)」という経験の重みです。

大人は「国立は倍率が高いから」「記念受験だから落ちても仕方ない」と頭で割り切ることができますが、幼い子どもはそう捉えることができません。
「何ヶ月も塾に通い、お父さんやお母さんに言われた通りに頑張ったのに、全部ダメだった」ということは、「自分の努力や存在そのものが否定された」と受け止めてしまう危険性があります。
幼児期の自己肯定感は、その後の人格形成や学習意欲に大きな影響を与えます。「1つでも合格をもらう」という成功体験が、子どもの心にどれほど大きな自信と安心感を与えるか計り知れません。
親が直面する「仕上がった後」の感情の変化
受験準備を始めた当初は「地元の公立に行くし、国立がダメならそれでいい」と気楽に考えていた保護者の方も、実際に幼児教室に通い、模試を受け、親子で涙ぐましい努力を重ねるうちに、我が子の成長を目の当たりにすることになります。
ペーパーが解けるようになり、行動観察で立派に振る舞えるようになった我が子の姿を見ると、
親心として

「こんなに子どもが頑張って、実力も仕上がっているのに、国立の狭き門だけに賭けて万が一のことがあったら…」

「あのとき私立も受けておけば、確実に合格をもらえていたのに…」
という強い後悔の念が芽生えてきます。
しかし、11月の私立本番の時期を逃してしまっては、後から「やっぱり私立も受けたい」と思っても、もう戻ることはできません。この「後から気づく後悔」こそが、国立単願の最大の罠なのです。
後悔しないための「戦略的併願」という選択肢

では、国立小学校を目指す家庭はどのように進路を考えるべきなのでしょうか。
大切なのは、大人の都合や「ダメ元」という言葉で子どもの未来を縛るのではなく、子どもの自己肯定感を守るための「戦略的併願」を検討することです。
- 練習校・自信をつける校の受験:
国立一筋を掲げる場合であっても、確実にご縁をいただけそうな私立小学校や、早い時期の試験を「練習」や「自信をつける場」として位置づけ、1つでも合格実績を持つ状態で国立の本番に臨む環境を作ること。 - 家庭の教育方針の軸を明確にする:
「なぜ国立に行かせたいのか」「公立に行くことになった場合、家庭でどうサポートするか」を親子でしっかりと共有し、大人の都合だけで子どもを振り回さない心構えを持つこと。
「知らなかった」を「知ってよかった」に変えることで、受験の結果がどうであれ、親子にとって納得のいく、笑顔で終えられる挑戦にすることができます。
まとめ

「国立単願・ダメなら公立」という選択は、一見シンプルで負担が少ないように見えて、実際には入試日程の過酷なタイムラグや、子どもの自己肯定感を揺るがす全落ちのリスク、そして親の拭えない後悔が潜んでいます。
国立小学校を目指すご家庭こそ、スケジュールの現実を直視し、子どもが「頑張ってよかった」と思えるような戦略的な併願とサポート体制を検討してみてはいかがでしょうか。

後悔のない、温かい小学校受験を迎えるための参考にしていただければ幸いです。
詳しくはYouTubeでもお話しています。以下からご覧いただけます。
